Story

『納屋に生み落とされて』

1975年7月26日

南国土佐の田舎町
そこから更に離れた国道56号線沿いに
寂れた村がある

その年一番の暑さを記録する真夏の夜
村の小さな納屋の中で
南京袋を敷いたスペード・シャベルの上に
母親は俺を生んだ

藁とディーゼル燃料の匂いの
染み付いた納屋の中は
洋燈の灯りが
紺や緑や焦茶色の農薬ビンに乱反射して
目を開けると 眩しかった

(暗い洞窟から出て来たばかりだったせいで
眩しすぎて 大声で泣き喚くしかなかった)

 

百姓の長男として生をうけた俺は
少年になったある朝
納屋の屋根裏部屋にギターを見つける

その妙な形をした
鉄と木で出来ている道具は
想像とは全く違い
ガラクタの様でいて
どこか美しい
不思議な音色を出した

錆びて弛んだ針金が
だるそうに跳ねる音だ

納屋のブルース演奏が始まった

 

それからしばらく経った
ある真夜中
ひと気の無い街の交差点で
パンクロックと出会う

奴は最低で最高だった

俺はすぐさま仲間を集め
バンドを作り
都会で一儲けする話を持ち掛ける

翌朝 二つ返事の仲間達と
灰色の長距離バスに乗り込んだ

バスは三日三晩走り続け
そして「都会の夢駅」に辿り着いた

 

・・・・・数ヶ月後

些細ないざこざから
バンドと共に仲間は散り散りになる

荒んだ生活と歪んだ青春を過ごし
幾つかのバンドを彷徨った後

 

歳月が流れ
独りになった

納屋で生まれた男は
場末のBarで弾き語りを始めた

酒と人間を愛すべく

夜な夜な訪れる様々な

呑んだくれの方々に

楽しんで頂ければ

是れ幸いなり

 

ナカヒラ ミキヒト

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